遺言書に書かれていない債務 誰が払う?

遺言書に書かれていない債務 誰が払う?

こんにちは。渋谷宮益坂法律事務所です。

今日は相続債務の問題を取り上げます。

【事例】

父が生前資産の分け方について遺言書を遺してくれたので、兄弟で揉めずに相続できると思っていた。ところが父の自宅に行くと市民税の納付書が…遺言書には誰が債務を払うのかについての記載がない…さて、誰が払うのでしょう。

【解説】

このように、遺言書には、資産の承継については記載されているけれども、債務の承継については記載されておらず、誰が支払うべきなのかわからないということがよくあります。

そこで、今回は債務の相続(民法902条の2)について説明します。ポイントは対外的な負担割合(債権者との関係)と対内的な負担割合(相続人間の関係)が異なるということです。

1 まず対外的な負担割合(債権者との関係)についてです。

結論からいうと、債権者との関係では遺言書の記載内容にかかわらず、法定相続分に従って支払いをすることが原則になります(902条の2本文)。

例えば、相続人が兄弟2人の場合、各々の法定相続分は2分の1ですので、各々が2分の1ずつ支払いをすることになります。

債権者の立場で考えると、相続人の一人が資産を全て相続して、もう一人の相続人が負債だけを相続した場合には債権を回収できない可能性が高まってしまいますからね。

債権者がこのリスクを負っても良いということであれば、債権者を保護する必要はありませんので、債権者が法定相続分とは異なる割合での支払いを承認する場合には、例外的に法定相続分と異なる割合で各相続人が債権者に対し支払うことができます(902条の2ただし書)。

債権者が承認しなければ、遺言書に債務の承継に関する記載があったとしても、法定相続分に従って支払いをする必要がありますので、注意してください。

2 次に対内的な負担割合(相続人間の関係)についてです。

対内的な負担割合は、遺言書により指定された相続分が反映されます。

特定の相続人に全財産を相続させる旨の遺言であれば、他の相続人が債権者に対して支払った場合、支払った相続人は、全財産を相続した相続人に対して、弁済した額を請求することができます。

また、遺言書で各相続人が相続する財産の指定があれば、その指定相続分により定まる債務額を超える部分について他の相続人に請求することができます(遺言書の趣旨によって変動することもあります。)。

3 このように、債権者に対する負担割合と相続人間の負担割合が異なる状況が発生します。

例えば、相続人が兄弟2人で、兄に全ての財産を相続させるという遺言が存在していたとしても、債権者が弟に対して支払を求めたら、弟は債権者に対して法定相続分に応じた金額を支払わなければなりません。その上で、弟は兄に対し求償することになります。